YWHコラム部屋

「クラシック名曲コラム」 Vol. 5 


20世紀フォックスのテーマ、「遠い昔、はるかかなたの銀河系で…. 」の文字、高らかに鳴る金管のファンファーレ、そして斜め上に流れるお約束のあらすじ説明…もうおわかりですね。今回はSF史上不朽の名作『スターウォーズ』を取り上げます。『スターウォーズ』はジョージ・ルーカス制作のSF映画で、1977年以来これまで計6作が公開されています。最初の3(旧三部作)でジェダイの騎士率いる反乱軍が銀河帝国を崩壊に追い込む戦いが描かれる一方、次の3作(新三部作)では時をさかのぼって旧三部作以前の、銀河帝国の成立過程が描かれました。


作を通じて音楽にはジョン・ウィリアムズ作曲、ロンドン交響楽団演奏の重厚なオーケストラサウンドが用いられていますが、特徴としてポニョのコラムでも触れた「ライトモチーフ」の多用があげられます。これはオペラにおいて登場人物に特定のメロディーを与える作曲技法で、「この音楽が流れたからアイツが出てくるな」というように客に強い印象を与える効果があります。『スターウォーズ』では「ルーク・スカイウォーカーのテーマ」「レイア姫のテーマ」「ジェダイのテーマ」「ヨーダのテーマ」など数多くのライトモチーフが用いられています。


でも一番有名なものは「帝国のマーチ」、いわゆる「ダース・ベイダーのテーマ」でしょう。低弦とスネアの細かい刻みの上にあのトランペットが鳴り響けば、否が応でもダース・ベイダーの「シュコーシュコー」という呼吸音が思い浮かびます。ダース・ベイダーは、かつてはジェダイの騎士だったアナキン・スカイウォーカーがフォースの 暗黒面に堕ちた後、師匠の制裁により重傷を負い生命維持装置を身にまとった姿です。彼がまだジェダイだった時代を描いた新三部作には「アナキンのテーマ」という美しい音楽があるのですが、実はこの音楽の一部に「帝国のマーチ」のメロディー進行が用いられており、後に彼にふりかかる悲劇的な運命を効果的に暗示しています。


て皆さん、待ちに待ったエピソード7「フォースの覚醒」が今年冬に公開予定です!ハン・ソロ役のハリソン・フォードが飛行機事故で重傷を負ったというニュースは心配ですが、何とか予定通り公開されることを願っています。今作も音楽はジョン・ウィリアムズが担当しますが、前作から10年を経て作曲者がどのような境地に達したかにも注目して観てみてください。


「クラシック名曲コラム」 Vol.

 

さんはポニョの本名をご存知でしょうか?

 

ブリ映画の中では比較的子供向けと思われている「崖の上のポニョ」ですが、実はその全編を通じてリヒャルト・ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指環」(“指環”) へのオマージュが込められた、細部まで作り込まれたとても奥の深い作品なんです。“指環”は「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏(ラグナロク)」の四作から成り、全編通して演じるのに丸4夜かかるという記録的超大作オペラです。そのストーリーは北欧神話に基づいており、ライン川の川底にある黄金から作られた、全世界の支配を可能にするという指環の奪い合いが話の展開の縦糸になっています。


はポニョの本名は「ブリュンヒルデ」なのですが、これは”指環”のヒロインである神々の姉妹「ワルキューレ」の長女の名前と全く同一です。”指環”ではブリュンヒルデが父である神々の長「ヴォータン(北欧語で「オーディン」)」に逆らい、神性を奪われ眠らされた後、ジークフリートのキスで魔力を失った人間として覚醒しますが、これはポニョが宗介のキスで魔力を失い魚から人間になるというストーリーと酷似しています。

 

楽面では何と言ってもポニョが宗介に会うために大津波の上を駆けていくシーンに注目ですね。このバックで流れる3拍子風の曲は映画「地獄の黙示録」で有名な曲「ワルキューレの騎行」にそっくりですが、この曲の名前は 「ポニョの飛行」なんです。もはやここまでいくとオマージュへのこだわりもすごいですね。この曲を含め、ポニョでは最後の「ポーニョポニョポニョ♪」を除くほぼ全ての曲が新日本フィルハーモニーによって演奏・録音されており、CGを用いず手描きにこだわった、暖かみのある映像と絶妙に融合しています。

 

 なみにオペラにおいて、登場人物それぞれに特定のメロディーやコード進行を割当て、さらにはそれを内声にこっそり含ませたりすることで微妙な機微を表現する「ライトモチーフ」と呼ばれる作曲技法が用いられることがありますが、これを多用し芸術の域に高めたのがワーグナーです。ポニョにおいても有名な「ポニョのテーマ」はもちろんのこと、ポニョの父「フジモトのテーマ」、ポニョの母「グランマンマーレのテーマ(冒頭の女声独唱)」などたくさんのライトモチーフが用いられ、久石譲がワーグナーを強く意識している様子が見て取れます。

 

後に指環の主題である“全世界の支配を可能にするという指環を巡る争い“、これ映画「ロード・オブ・ザ・リング」とそっくりですよね?実は「ロード・オブ・ザ・リング」の原作となったトールキンの「指輪物語」もまた”指環”の元になった北欧神話と同一の伝承を元にしており、この2者には多くの類似点が見られます。「ロード・オブ・ザ・リング」がお好きな方はぜひ「ニーベルングの指環」とポニョについても調べてみると、また違った角度からそれぞれの作品が見えてくるかもしれませんね。


 

「クラシック名曲コラム」 Vol.



あけましておめでとうございます。コラムの新年一発目はベートーベンの交響曲第9番、いわゆる「第九」について紹介します。


1. 4楽章の構成

最終楽章である4楽章の前半は器楽のみで構成され、低弦のメロディー(”Recitativo=「叙唱」)と、1-3楽章の主題が交互に演奏されます。その後、前半1/3を過ぎたところでバリトンの独唱、”O Freunde, nicht diese Töne(=「おお友よ、このような響きではない!)をきっかけに合唱が始まるのですが、実はこのバリトン独唱はこれまでに低弦が繰り返し演奏してきた叙唱に歌詞をつけたものなのです。つまり、この楽章は1-3楽章で積み上げてきたものを低弦の叙唱が否定することを繰り返す中で、新たにベートーベンの真のメッセージが提示される、という遠大な構成になっているのです。

 

2. トロンボーン

ベートーベンは交響曲第5番「運命」で、交響曲では初めてトロンボーンを用いた作曲者として有名ですが、この「第九」でも演奏個所は少ないながらトロンボーンが非常に効果的に用いられています。例の「歓喜の歌」の直後、「抱擁の主題」と呼ばれる箇所は、なんとオケ全体が静まり返る中でバストロンボーンの超どソロから始まるのです!アルトおよびテナートロンボーンにもその直後に重要な演奏個所があり、まさに合唱の伴奏楽器としてのトロンボーンの面目躍如といったところです。もし今度テレビで「第九」を見る機会があれば、ぜひ「歓喜の歌」の後ろで緊張のあまりスライドをもじもじさせるトロンボーン奏者たちに注目してみてください。



なお、今では「歓喜の歌」の主題はあちこちで使われ、年末のスーパーの特売のBGMにもなっていたくらいですが、これまで個人的に一番印象深く感じたのは映画「天使にラブソングを2」の”Joyful joyful”です。厳粛な合唱コンクールの舞台上でローリン・ヒルがいきなりゴスペル風のソロを歌いだすところは、記憶に残る名シーンでしたね。

 

いかがでしたでしょうか?今年もこんな感じでクラシック音楽をマニアックに紹介していこうと思います。どうぞよろしくお願いします。



 「クラシック名曲コラム」 Vol.

 


チャイコフスキーはロシアの作曲家で、この作品は「白鳥の湖」「眠りの森の美女」とならんで3大バレエと称される有名な作品です。ちなみにくるみ割り人形とは人形の形をしたくるみ割り器のことで、口のところにくるみを差し込んで、背中のレバーで人形のあごを開閉させて固い殻を割る仕組みになっています。このバレエはもともとホフマンの童話「くるみ割り人形とねずみの王様」をもとに作られました。そのあらすじは、クリスマスイブにくるみ割り人形をプレゼントされた女の子クララがおとぎの国に引き込まれ、くるみ割り人形が指揮するおもちゃの兵隊とともにはつかねずみの王様と戦うというものです。



子供を対象にした原作を反映してか、その音楽は木管楽器が活躍する非常に愛らしい曲想のものが多く、例えば冒頭に演奏される小序曲ではチェロとコントラバスが使われておらず、軽やかなバイオリンの旋律がおとぎの国の入り口を教えてくれます。劇の後半では呪いが解けたくるみ割り人形が、真の姿であるお菓子の国の王子に戻ります。彼はクララを舞踏会に招待しますが、そこでは中国(お茶の精)やスペイン(チョコレートの精)、アラビア(コーヒーの精)など世界各地のエキゾチックなダンスが音の世界一周を演出してくれます。笛の形のお菓子の妖精が踊る「葦笛の踊り」は、ソフトバンクのCMで使われていることで有名ですね。



この「くるみ割り人形」はそのクリスマスイブという場面設定からか欧米では年末にかけて演奏されることが多く(日本でいうベートーベンの「第9」みたいなものでしょうか)、劇場でこのバレエを見るといつも「今年もあと少しだなぁ」という気分になります。実はチャイコフスキーの音楽は「白鳥の湖」に代表されるように、よく言えば情熱的でロマンチック、悪く言えば暑苦しい(失礼!)ものが多いのですが、「くるみ割り人形」はお菓子の舞踏会の他にもおもちゃの兵隊とねずみの王様の戦闘シーンなど、シリアスなんだけどちょっとユーモラスで可愛らしい雰囲気の音楽が多く、見ていて飽きが来ません。クラシックの演奏会では作曲者本人が抜粋した20分程度の「組曲版」が演奏されることが多いのですが、もし機会がありましたらぜひ劇場で実際のバレエ全曲版を鑑賞してみてください。




「クラシック名曲コラム」 Vol.1 

 

吹奏楽はクラシック音楽から派生した音楽ですが、 今では独立したジャンルとして確立しています。そのため中には、吹奏楽を演奏する機会は多くてもクラシックの曲を聴かれる機会は多くない、という方もおられるかもしれません。そこで本コラムでは、数あるクラシックの曲の中で管打楽器が活躍するおすすめ曲を紹介していきたいと思います。

 

今回取り上げるのはフィンランディアです。映画「ダイハード2」の音楽としても有名なこの曲は、フィンランドの作曲家、J.シベリウスによる交響詩ですが、実はもともとは彼の「歴史的情景」という組曲の最終曲で、当初の曲名は「フィンランド(Suomi)は目覚める」でした。Suomiとは「沼と湖の国」という意味で、フィンランド人が愛国心をもって自国を呼ぶときに用いる呼称です。しかし当時フィンランドは帝政ロシアの属国であり、タイトルが不穏当であるとして発禁処分を受けてしまいます。しかし、シベリウスはあきらめず、曲名をかえてこの曲を出版、後には国名そのものを曲名とし「フィンランディア」と名付けます。高まる独立の機運の中でこの曲はいつしか、フィンランド独立運動の象徴となっていきました。

 

曲は序奏を2つもつ三部形式(1-2-A-B-A)です。ロシアの圧政を想起させる金管楽器の重々しい第一序奏から始まり、その後第二序奏でティンパニーのトレモロとともに機銃の連射をも思わせるトランペット・トロンボーンの激しい打ち込みが緊迫感をあおります。唐突に低音楽器の5拍子のAs-B-C-As-Esの主題提示(「闘争の呼びかけのモチーフ」)とともに曲調が一転し、長調の快活な主部Aでは弦楽器が「勝利に向かうモチーフ」を上昇音型で演奏します。中間部Bでは雰囲気は一変し、讃歌風の旋律が木管・弦楽器により奏でられます。再現部Aで再度「闘争の呼びかけのモチーフ」がわき起こり、最後は中間部Bの旋律を金管楽器がコラール風に華やかに演奏し曲は終結します。

 

フィンランド独立後もシベリウスはフィンランドに古くから伝わる「カレワラ」という民族叙事詩を元に、民族意識を高揚させる作品を数多く作曲しました。私はカナダを旅行中に、住宅街の小さな公園(フォーラム南太田の近くの公園くらいの広さ)にシベリウスの像が立っているのを見つけたことがあります。驚いて地元の方に尋ねると、かつてそのエリアにはフィンランド移民が多くすんでおり、彼らが遠い祖国を思って建てた像が今も残っているという答えが返ってきました。その音楽をもって人々に尊敬されたシベリウスは1957年に亡くなりましたが、遺された数々の作品は今も世界中の人々に愛されています。

 


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